連載 No.23 2016年02月14日掲載

 

長い車中泊の生活


撮影旅行から戻り、ここ数日は都内のスタジオで人物の撮影をこなしている。

たまっていた撮影の依頼や、国内外での著作物の使用に関する書類。

旅のフィルムの現像に取り掛かる前に、そんなもろもろを片付けなければならない。

スタジオでの撮影中にスタッフに北海道の旅の話をすると、

どんなおいしいものを食べたかと聞かれるが、いわゆるご当地グルメにはまったく縁がない。

車内でのストイックな生活を初対面の人に話すと、ちょっと引かれてしまう。

だから詳しくは話さずに、適当にごまかしている。



気まぐれな天候に翻弄されながら、40日間を北海道内で過ごした。

吹雪でカメラが出せない日は仕方がないが、

穏やかな天候なのに、モチーフが見つけられない日が続くと、自分を責めるように、生活もストイックになってくる。

逆によい条件にめぐりあってカットを重ねると贅沢に、

と言ってもコンビニで冷凍のジンギスカンを買うくらいだが、気持ちも軽い。



車内泊の食事は大体決まっている。朝は体を温めるためにうどん。昼はパンで夜はホイル焼きだ。

ホイル焼きはアルミホイルに包んで冷凍のポテトや肉類を時間をかけて焼く。

ジンギスカンもこの調理法だ。鍋が汚れず、ほとんどゴミが出ない。

いわゆるキャンピングカーではなく、換気装置のないワゴン車だから、窓は開けたまま。

テントで調理するのと同じ感覚だが、吹雪いてなければ、寒さはそれほど感じない。



このメニューにもそれなりの理由がある。

限られた調理器具(コンロにかけられる2種類の鍋)は、水が凍ってしまうと洗うことができない。

車内泊の場所は主に道の駅。

トイレや洗面施設はあるのだが、調理や洗い物は厳しく規制されている。

ペットボトルなどの水筒に水を汲むことさえ禁止しているところもある。

そして、ゴミ箱は設置されていないので、

旅行中のゴミは最低限にして、そのほとんどを持ち帰らなければならない。

これは、ハイシーズンにマナーの悪い利用客が多いからだと思うが、

それらを踏まえても、ゴミを出さない、飲料水以外を使わないこが必要だ。

一日あたり水は1リットル、ゴミは一握りと言うのが自分のペースと決めている。



お金もあまり使わない。

そんな節約志向の旅ではあるが、戻って普通の生活と比べると、はるかに豊かだったように感じる。

移動できないほど激しい雪の日には何もしないでゆっくり過ごす。

狭い車内だが、外の世界も自分の庭のようだから、これを超える贅沢はない。



今回の写真は2012年の暮れ、野付周辺での撮影。吹雪の合間、風が弱まって雪だけが降る。

数枚露光したが、フィルム面に雪が付着して、使えるネガはこの一枚だけだった。

適度に雪が降り、地面の雪が空よりも明るくなる。私は、このバランスが好きだ。

その年はなかなか良いものが撮れず、道内に入って一週間、これが初めてのカットだった。